1 はじめに
筆者(西田)が2017年3月から弁護団員として活動してきた、奈良学園大学のビジネス学部・情報学部の学生募集停止に伴う整理解雇・雇止め事件につき、2020年7月21日、原告らの勝訴判決が言い渡されました。
すなわち、奈良地方裁判所は、奈良学園大学の教員ら7名(以下、「原告ら」といいます。)が2017年3月末で解雇・雇止めされた事件について、5名に対する解雇が違法・無効であったとして、学校法人奈良学園(以下、「被告法人」といいます。)に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、未払賃金・賞与等として総額1億2000万円余りを支払うよう命ずる判決を下しました。(定年後再雇用の2名については、残念なことに、雇止めが有効とされました。)
2 本件解雇・雇止めに至る経緯
原告らは、被告法人が運営する奈良学園大学の教員でした。
被告法人は、2012年に学部の再編を計画し、新たに人間教育学部、保健医療学部を作るとともに、従来のビジネス学部・情報学部を改組した現代社会学部を設置しようとしました。この際、現代社会学部が設置できなければ、ビジネス学部・情報学部を存続させるとの付帯条件が付されました。
ところが、2013年8月に現代社会学部の設置申請が取り下げられると、付帯条件を撤回し、ビジネス学部・情報学部教授会への事前の説明に反して学生募集を停止し、2017年3月末までに両学部に所属していた教員ら全員を転退職させようとしました。
この方針に反対した原告らは、2014年2月に私大教連傘下の労働組合を結成し、その後、奈労連・一般労組にも加入し、被告法人との団体交渉を重ね、大学教員としての雇用継続を求めてきました。
しかし、被告法人は、大学職員である原告らに事務職員への配置転換を提案するなどして、大学教員としての雇用を継続するための努力を一切しないまま、2017年3月末、原告らを含むビジネス学部・情報学部教員12名を解雇・雇止めにしました(原告らの解雇・雇止めを「本件解雇・雇止め」といいます。)。
3 本判決の意義と内容
本判決は、学校法人の学部再編を理由とする解雇に整理解雇法理を適用し、解雇を無効としたものです。少子化等による経営悪化を口実に全国の大学で安易な統廃合が行われる中、学校法人に対して教員らの雇用継続について責任ある対応を迫るものとして、大きな意義があります。
すなわち、本判決は、学部再編を理由とする解雇・雇止めも、整理解雇法理に従うべきものとし、いわゆる整理解雇の4要件(要素)である①人員削減の必要性、②解雇回避努力を尽くすこと、③人選の合理性、④手続の相当性を厳格に適用しました。
①につき、学生募集停止による人員削減の必要性については認めつつも、被告法人は資産超過であったことなどから、人員削減の必要性が高かったとはいえないとしました。
②の解雇回避努力については、原告らが「大学教員であり、高度の専門性を有する者であるから、教育基本法9条2項の規定に照らしても、基本的に大学教員としての地位の保障を受けることができる」とし、原告らを人間教育学部又は保健医療学部に異動させることを検討せず、その前提となるAC教員審査を受けさせる努力をしていないことなどから、解雇回避努力がつくされていないと判示しました。
そして③人選の合理性と④手続の相当性についても否定しました。
但し、本判決は、原告らのうち定年後再雇用であった2名については、有期雇用更新の合理的期待があったものと認めつつも、人員削減の必要性が認められることから、有期雇用の労働者を優先的に雇止めすることも合理性があるとしました。この点は、現在、控訴審で争っています。
4 おわりに(今後の展望と本事件への想い)
筆者(西田)は、本事件が初めての弁護団事件、かつ、初めての労働事件であり、大変思い入れの強いものでした。勝訴判決の際は、一番若手ということもあり、「勝訴」の旗出しもさせていただきました。
2017年4月の提訴から3年間、労働委員会と並行しての裁判は、弁護団にとっても負荷の高いものでしたが、当事者である原告団の方々にとっては、相当に苦難の多いものだったと思います。当事者の方々の苦労が報われる結果となり、大変喜ばしく思っています。
本件は、双方が控訴し、現在は大阪高等裁判所に継続しており、闘いはまだしばらく続きます。弁護団及び原告団は、一審勝訴部分を維持しつつ、一審敗訴部分についても勝利を勝ち取るべく、奮闘していく所存です。引き続き、応援の程よろしくお願いいたします。
(弁護団:豊川義明、佐藤真理、鎌田幸夫、中西基、西田陽子)
【文:弁護士西田陽子】